<aside> <img src="/icons/flag-swallowtail_red.svg" alt="/icons/flag-swallowtail_red.svg" width="40px" /> 四肢切断、BL
</aside>
「昔、好きな人が居たんです」 不意に彼女はそう言ったものだから、僕はひどく驚いた。 「本当に昔ですけれど。貴方との婚約が決まる前です」 「……もしかして、僕のせいで諦めた?」 恐る恐る問うた言葉に、彼女は穏やかに微笑み、首を振る。 「まさか。お話が来るほんの少し前に、もう諦めていました。そうでなければ婚約なんて蹴ってます」 ……僕はもう少しでフラれていたらしい。色々駄々を捏ねておいてよかったなあとしみじみ思う。多方面に色々迷惑をかけた甲斐があったというもので。 「じゃあ、どうして諦めたりなんかしたのさ」 「簡単な話ですよ、」 もしかしたら貴方は信じないかもしれないけれど。どこか懐かしむように彼女は目を細めて。 「人じゃなかったんです、そのひと」
「……まさか、鬼とはねえ」 きらきらと煌めく銀糸の髪を弄びながら、無防備に眠る青年の顔を覗き込む。 庭先に迷い込んでいた手負いの鬼は、二度と歩けぬよう切断された脚を引き摺ってこの山まで逃げてきたらしかった。 紅い目をぎらぎらと殺意で漲らせてこちらを睨みつけてくる彼に、有体に言えば興奮した。彼女が土に還ってからというもの、何をする気も起きなかった僕が、だ。 「(多分、麓の村のどれかだろうな……、この脚じゃそれほど距離稼げないだろうし)」 匿うことは容易い。この屋敷に麓の村人たちは立ち入れないし、『本家』には適当なことを言っておけば放置してくれるだろう。元々彼らは僕に対して無頓着だ。 何も心配することはない。だけど、それだけじゃ面白みに欠ける。 「(……この鬼で、どうやって遊ぼうか、な)」 ひとりでうっとりと、狂人らしく僕は笑った。