かみさま。 かみさま、かみさま、かみさま、かみさま!! かみさま、おれのすきなごはんもおもちゃもゲームもまんがもなみだもおれのめもおれのいのちもぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶあげるから、おねがい、おねがいだから、 ゆうしを、たすけて。
「――悦志」 やわらかい声が、泣きじゃくる子供の名前を呼ぶ。 冷たい手が悦志の両目を覆って、やさしく、まるで壊れものを扱うように抱き寄せられた。 ひく、と子供がしゃくりあげる。少しだけ香る花の匂いと、つめたい手が泣き腫らした目に心地いい。 「に、いちゃ」 「あんなあ、悦志」 関西訛りのきれいなハスキーボイスが鼓膜を揺さぶる。最初こそ首をかしげたが、子供の順応能力というのは高いもので、悦志は半年もかからずにこの兄の不思議な言葉遣いに慣れた。それどころか、兄の扱うその言葉がどこかうつくしいものであることも悦志は知っていた。 そのどこかうつくしい声に、悦志は洟を啜る音すら止めて聞き入る。 「かみさまは、そんな犠牲は喜ばへんよ」 「ぎせ、い?」 「かみさまはおまえの好きなものとか、おまえのいのちだとか、そういうものをあげても、願いごとを叶えてくれへんの」 うつくしい声は、悦志にとってとても残酷なことを宣言した。 視界をふさがれたままの大きな栗色の瞳に、ふたたび涙が溜まって、兄のつめたい手をぬらした。 「じゃ、お、れ、ど、……おすれ、ば」 「簡単なことや」 またしゃくりあげ始めた幼い弟に、芽吹きの季節の名を持つ少年はやさしく、どこまでもやさしく囁きかける。 「信じればええねん。かみさまを、信じて、信じて、祈れば、優志は目を覚ますよ」 「ほん、と?」 「……ああ。たぶんまだ、かみさま、起きとると思うから」 まだ起きている、と言った兄の言葉を悦志は理解できなかったけれど、ぎゅうと目を瞑って悦志はただ必至に祈った。 かみさま、かみさま、ゆうしを、ゆうしをたすけて。
「……かみさまが悦志の犠牲を喜ばないように、悦志も優志の犠牲を喜ぶはずあらへんのに」 優志はばかやなあ、とこどもたちの中で一番年長の少年は、かすれた声で呟いた。