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ここ最近、晴れ間を見ていない。  暦の上でももう梅雨だし、実際雨続きだから、不思議ではないのだけれど。  少し高い気温が、そろそろ夏が来るということを教えてくれる。  雨の中紫陽花が綺麗に咲き、僕の膝で眠るひとも、結構前から雨音を子守唄に眠っていた。  かれこれ一時間は経っただろうか、と思ったところで、彼女の瞼がぴくりと動き、薄らと目を開いた。 「おはよう」 「……おはようございます……」  にっこり笑って声をかけると、彼女は起き上がってまだ夢見心地な声で挨拶を返した。  目を擦ろうとする彼女を止めて、優しく頭を撫でると、彼女は気持ち良さげに目を細めた。  彼女は昔から、頭を撫でられるのが好きだ。  彼女を育てた父が、良くそうしてくれたらしい。  優しく気高く、強い、自慢の父だ、と言っていた。  彼女のその声には、父を誇りに思い、愛する気持ちが溢れていた。  そこまで彼女に慕われる彼女の父を、ほんの少し羨んだ。 「ああ、」  唐突に、彼女が思い出した、とばかりに小さく声を上げた。 「そうだ、貴方に言わなくてはいけないことがあったんでした。……私は、冬を越せないそうですよ」  彼女が、唐突に、まるで明日の天気を言うような軽さで、信じられないことを言った。 「え、」 「お医者様が昨日、私にそう伝えました。私の身体はもう長くはないのだと」  その言葉を聞いた瞬間、僕は無意識に彼女を抱きしめていた。 「嘘だ」 「嘘ではありません。ここまで生きられたのが、不思議なぐらいなんですから」  どこか人事のように言う彼女が、酷く遠く感じられて、僕は泣きそうになった。  一際強く抱きしめた僕の頭を、彼女は優しく撫でてくれた。  それが一層哀しくて、僕は泣いた。